その日、朝からお客様のところを訪問する予定があったので、
ジャケットをはおって車に乗った。
近くまでは来たが駐車場がない。
どこか少しの間車を停めておけるところはないかと探していた。
その道の片側にはずらっと車が縦列駐車している。駐車禁止の標識はない。
私の停めるスペースはないかと車の列を横目で追いながらゆっくり走る。
うわっ!みごとに埋まってるよ。
しかたがないので十字路を左折し、又すぐに左折。
一本離れた道もたくさんの車が路上駐車していた。
ここでいいかっ!
目的地から少し離れてしまったが、わずかの隙間に頭から突っ込む。
きれいに入らないけど、まっいいか!
車から降りてまっすぐ歩く。
角を曲がって、さらに次の角も曲がってどんどん歩く。
今日は天気が良くて、風も気持ちいい。
あれっ?
この辺だったと思ったけど・・・
しばらく歩いてから不安になった。
一軒づつ表札を見ながら、門構えや玄関に見覚えはないか自問する。
えっ?
私、誰のうちに行くんだっけ?
何しにいくんだっけ?
立ち止まる。
手にはバッグも書類も何も持ってない。
あれっ何で?どうしたんだろう・・・
とりあえず車へ戻ってバッグを持って来なくちゃ。
手帳を見ればわかる。
早歩きで車へ戻る。
角を曲がって、又次の角を曲がった。
道の左側に並んだ車、大ホワイト、小シルバー、小ホワイト、中シルバー・・・
あれっ、ないよ。道の端まできたのに私の車がない!
おかしいなー・・・
もう一度来た道を戻る。
右手で車にふれながら「違う」「違う」「これも違う」と一台ずつ念入りに確認する。
おかしいなー、一本道を間違えたのかなー。
ひとつ手前の道に入る。
「違う」「違う」「これも違う」・・・ない!私の車がみつからない!
あせりと不安は増大し、自分の車を探すことで頭がいっぱいになった。
もう一度来た道に戻る。
何度も同じところを行ったり来たり。
いったいどのくらい歩いたのかわからない。疲れて足が重い。
いったいどうなってしまったのかと不安と心細さに支配される。
その時、通りかかった美容院の戸が開いて年配の女性から声をかけられた。
「どうかしましたか?」
フッと緊張の糸が切れた。
招かれるまま中へ入りイスに座ると、一筋の光明がさしたような気がして
朝からのこと、ずっと車を探していることをいっきに話した。
「そうですか、それはたいへんでしたねー。どなたかご家族に連絡してみたら
どうですか?」
「それが、今日は財布も何も持っていないもんですから」
「どうぞうちの電話を使って下さい」
あぁ、なんて親切な・・・
夫に電話をかけるとすぐに迎えに来てくれた。
「だいじょうぶ?」
イスから立ち上がった私の肩をポンポンとたたきながら引き寄せる夫。
大きな安堵感であった。
この時、少し離れた空間からこの状況を客観的に見ている自分がいた。
きちんとした服装に着替えたと思っていたのにパジャマのままのわたし。
足元はスリッパ。
車など初めからなかったのだ。
ハッとして目が覚めた。心臓がドクドクと高鳴っている。
あぁー・・・夢だったんだ・・・
怖かった・・・
何も思い出せず一人でさまよっていた時の不安、心細さ、怖さをはっきり覚えている。
そして体もぐったりと疲労困憊していた。
自分の記憶が鮮明なうちに、問いかけた。
「なんでもっと早く誰かに助けを求めなかったの?」
「私の車はどこでしょうかなんて聞けるわけないでしょ」
・・・そうか、ばりばりと仕事をしている時の私だった。
「じゃあもっと早く電話すれば良かったのに」
「車を探すことだけしか考えられなかった」
・・・そうかー
心臓の鼓動がやっと静かになった。
夢の中でも認知症の私に夫はやさしかった。
この間、事務所のホワイトボードに日付だけ書いてあって用件が書いてなかったので、これはとても大切な約束だったかな?
とても気になっていたがどうしても思い出せない。
ある人からの電話で、その日がキャンセルになったとわかり一安心しました。
少し前に認知症と思われるご婦人に会いましたが、自宅を探してさまよっていたため
随分不安と疲れが見えました
幸い警官の手に委ねることが出来ましたが
あの不安な目は忘れられないです
もし自分が認知症だったら・・・と
居間から台所に移動しただけなのに何故移動したのか
思い出せないことが・・・(ToT)
いつかは行く道 と思いますが、できれば行きたくない道とも思います。
忘れることがわかったり、わからなくかってしまうのがわかるのはつらいことだと思います。
夢の中でも、やさしいご主人でよかったですね~。
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